極低温環境下における結合の弱いアルカリ金属原子-ヘリウムクラスターのエネルギー・構造を光学的手法のみによって観測することは難しい。これを克服するためレーザー光と共にラジオ波を使用すれば、磁気共鳴的手段により結合の弱いクラスターを非破壊的に測定できると思われる。また磁気共鳴周波数の化学シフトによってクラスターの種類、クラスターの存在する環境も区別することが可能になる。さらに、印加する磁場に勾配をつけると3次元磁気共鳴映像を観測できるので、極低温環境下のクラスターの存在密度を知ることもできる有用な手法である。 現在その前段階の実験として、室温のガラスセル中に^4EHe(約700Torr)とCsを封入し、磁気共鳴信号と2次元磁気共鳴映像を観測している。CsD^1線に共鳴するレーザーで光ポンピング・光検出しているので、高感度にCs原子分布の映像が得られている。映像を観測する時刻を光ポンピングの時刻から遅らせると、磁気共鳴映像の鮮明さが消失している。これは光ポンピングされたCs原子がHe気体中で拡散していることを示している。これまで気体試料の磁気共鳴映像を観測した例がほとんどないので、拡散を映像として観測できたことは注目すべき成果である。今後ガラスセルの温度を変えて、拡散などの変化を調べる予定である。 上で述べた成果を発展させると、低温希ガス原子の磁気共鳴映像が得られる。核スピンのゼロでない希ガスをバッファにして、アルカリ金属原子から希ガス原子へのスピン偏極移行によって、希ガス原子の磁気共鳴信号を得る。アルカリ金属原子の電子軌道とヘリウム原子核の重なりは非常に小さいので、まずキセノン原子でスピン緩和などを調べた後、極低温ヘリウム3でアルカリ金属原子とヘリウム原子との相対位置による共鳴周波数の変移を観測する予定である。
|