本年度は、相対論的量子力学の古典力学的極限における問題を調べるため、Dirac表示とFoldy-Wouthuysen(FW)表示におけるDirac振動子の相対論的コヒーレント状態の性質、Dirac振動子コヒーレント状態におけるスクイーズド状態、相対論的量子力学におけるEhrenfest定理の可能性、等について研究を行った。そして以下の事柄を明らかにした:(1)Dirac表示でのコヒーレント波束の運動は明らかにZitterbewegung効果(Z-効果)を示す。そのZ-効果はDirac振動子ポテンシャルが強いほど顕著である。(2)FW表示でのコヒーレント波束はZ-効果を示さなく、その波束の運動はDirac表示でのコヒーレント波束においてZ-効果を除いた部分に大体対応する。(3)非相対論的調和振動子コヒーレント波束と違い、Dirac振動子コヒーレント波束は時間的に波束の消滅・再生を繰り返す。しかしながら、FW表示でのコヒーレント波束は、古典的点粒子の運動に近い振る舞いを示す。(4)Dirac表示とFW表示でのコヒーレント状態の性質の違いは、Z-効果の有無の他に運動量の期待値に顕著に現われる。コヒーレント状態の振幅が大きくなると、Dirac表示でのコヒーレント状態の運動量の期待値は古典力学的極限の点粒子のそれから大きくずれる。一方、FW表示でのコヒーレント状態の場合は古典力学的極限の場合に良く対応する。(5)コヒーレント波束の時間発展においてスクイーズド状態が非周期的に生じる。(6)Dirac振動子ポテンシャルを持つDirac方程式に対するEhrenfest定理がFW表示を採ることにより自然な形で得られる。これは、FW表示により一般的にDirac方程式の古典力学的極限を定義できることを示唆する。 以上の結果は学術雑誌に論文として発表した。
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