上述の課題を実現するには高速かつ高感度の測定装置が必要である。そのため、我々の単一イオン照射-単一光子時間相関法(SISP)を更に改良することを手始めに、単一イオン照射ストリークカメラ測定法の可能性を探り、発光の時間分解測定精度を一桁以上向上することを目指した。現在のところ、イオン到達時刻のパルス発生時間精度は15ps以内と極めて高速化した。これを用いた全装置の分解能は85psで、世界最速である。これを上回るストリーク法については、浜松フォトニクスと協議の回を重ねた結果、最大の難関が突破できるみとうしがたった。 このSISPを用いて、弗化バリウム単結晶の初期イオン照射効果に極めて大きな高密度励起効果のあることを、内殻励起子と緩和励起子のdecay測定により明らかにした。これは、本装置のような高時間分解能をもってして初めて検出できることである。また、ごく最近、純水サファイアに数psと見積もれる異常に速いdecayの発光帯の存在することを発見した。イオン照射効果によるものかどうか調べつつある。また、東大・合志研の院生が本装置の一部のコピーをTOFに組み込み、新しい分析法を開発した。 また、イオン照射効果の初期過程をイオントラックの深さ方向に沿って微分分割測定する装置-トラックスコープを開発した。具体的には、発光を測定し、その強度をイオンのエネルギーあるいは速度の関数として求めた。資料は低温、高圧の希ガスを用いた。特筆すべき結果として、Braggピークを通過したトラック末端において、いずれの希ガスも発光効率の急激な増加を示した。このような結果は、初めてのものであり、阻止能理論の大幅な修正を促するのである。
|