研究概要 |
イオン結晶を加速イオンで励起すると、緩和励起子、内核励起子、自由励起子に大きな高密度励起効果の存在することを見いだし、そのダイナミクスを研究してきた。今回は、イオン結晶より耐放射線損傷が優れているとされるアルミナ結晶に歩を進め、イオン励起下発光スペクトルとその高速decay測定を行った結果、電子や光励起では観測されなかった新たな興味ある現象を見だした。 電子線励起によるUV及び可視域発光が3.8eVをピークとする発光帯ただ一つであるのに対して、イオン励起ではこれの他に4.5,2.9,1.8,1.75eVに発光帯が観測された。いずれも強度は低温ほど強く、また軽イオンほど強かった。用いた試料の元素分析ではppmを越える不純物は無いことから、イオン照射によって生成したセンターが関与したものと考えられる。 時間域20ns内の時間分解スペクトルを測定すると、上に述べた発光帯は3.8eVのもの以外認められなかった。3.8eVのものは電子線励起のときと同じものと考えられるが、その減衰曲線が遅れた立ち上がり(180nsピーク)が有って後、寿命約400nsで減衰するのに対し、イオン照射では大きく異なり、寿命600psの単調減衰(2重指数関数)であった。このことと、発光強度が励起密度の2乗を越すことなどから、緩和励起子の相互作用による誘導輻射が起こっているものと説明できる。最も特徴的な結果は、3eVをピークとする幅広の発光帯の重なりで、これは100ps以内で消失する極めて短い寿命の発光である。その減衰速度は、励起密度が高いと短く、温度降下(6Kまで)には影響されない。加えて、その発光強度は励起密度のほぼ2乗に比例した。これらの結果は、励起子間コンプレクスの生成を示すものである。
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