アルミナのイオン照射下で、発光の高速decay測定を行ったところ、光や電子線照射の場合に知られるものとは全く異なる発光帯を発見した。この発光帯が、アルミナ固有のものでなく、他の金属酸化物やアルカリ金属及びアルカリ土類金属ハライドにも観測されると予想のもとに、広範囲の結晶について測定を行った。結果は、直感的予想どうり、寿命が100ps以下で、幅広(約2eV)の発光帯が新たに見出された。ただし、我々の開発した装置の高精度時間分解能(100ps)があったればこその発見であり、通常のものでは検出は不可能である。更に測定を深め、励起密度依存性、温度依存性等を調べた結果、この新たしい発光帯は、その起源をイオントラック内の初期集団状態によるもの、すなわち、イオン照射によって瞬間的に生成した電子一空孔対が互いに結合しあって生じたプラズマ状態によるものと考えられる。イオントラックのこのような集団状態の発光を観測した例はこれまでにない。しかも、我々はdecay curveを測定している。これらの手法と結果は、イオン照射効果の今後のブレークスルーとなるものと考えられる。そればかりでなく、以上用いた結晶はいずれも基礎吸収帯までのエネルギーが高く、それを高密度に励起しようとしてもレーザーや放射光では不可能であるが、その壁は、イオンを用いれば易々と打ち破ることが出来ることを示した。すなわち、wide band-gap物質の高密度励起の研究の今後の発展が期待できる。
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