研究概要 |
地球外核の粘性は磁場の形成や内核固化に伴う潜熱の輸送といった地球進化の問題のみならず、核マントル境界層であるD"層の温度不均質を緩和あるいは亢進することを通じて現在のマントルの対流運動にも影響を与えることが予想され、この値を決定することは地球科学上の大きな課題である。本研究では、外核の粘性を実験的に推定することを目的として、溶融体の構造と物性の圧力依存性に関する研究を行った。 シリケイトメルト中におけるH_2Oの拡散実験においては、玄武岩質マグマと流紋岩質マグマの2種について3GPaまでの圧力下でのH_2O拡散速度を決定した。低圧下では拡散速度がH_2Oの濃度に強く依存していたが、圧力上昇に伴ってこの濃度依存性が消えていくことを見いだした。この結果から、フレームを構成するSi基と結合しているOH基の拡散速度が圧力上昇とともに顕著に増加するのに対して、メルトの空隙中を移動するH_2O分子の移動速度は、圧力上昇とともに顕著に低下することが示唆されている。 一方、溶融金属における拡散実験を溶媒Au拡散種Niの組み合わせで3GPaまでの圧力範囲で行った。拡散速度は、1200℃,1GPaの温度圧力下で2.3+0.4×10^9m^2/s、1300℃,3GPaの温度圧力下で2.3^〜3.7×10^9m^2/sと決定された。このAu中のNiの拡散速度がAuの自己拡散速度と等しいと仮定してSutherland-Einsteinの関係式から粘性率を求めると、3GPaまでの圧力範囲で5.5+1.5×10^3Pasという値が得られる。これは常圧での値とほとんど変わっておらず、また、Andadeの方法など溶融金属の物性理論から予想される値とも矛盾しない。今回の実験方法で8GPaまでの圧力下での実験が可能である。圧力依存性をより明確にするためには、実験精度の向上とともに、より高圧下での実験が必要である。
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