黒潮が輸送する主要な水塊の平均的空間構造とその時間変動の解明をめざして、次のとおり研究を実施した。 1.平成8年度に日本海洋データセンターのデータベースから抽出して品質管理を施した、気象庁による黒潮域定線観測データを、定線ごとに黒潮流軸を基準とする座標を用いて平均化し、黒潮の流速構造と海水特性の平均構造を求めた。表層から中層までの主要密度層ごとの輸送量・海水特性の流域に沿って変化していく様子を明らかにした。 2.利用可能なすべての既存海洋観測データを用いて作成した、黒潮再循環域全域およびその周辺域の水温、塩分、溶存酸素、渦位についての等密度面平均気候値マップと1の結果を比較して、主要密度層ごとの周辺から黒潮への流入、黒潮から周辺への流出の平均構造を記述した。また、黒潮大蛇行期と非大蛇行期とで、この平均構造が異なることを明らかにした。 3.黒潮の上流にあたる北赤道海流の海水特性の長期変動と黒潮輸送水の海水特性の変動を比較し、上流域での数年から10年スケールの変動が本州南岸にまで移流することを確認した。 以上により、南西諸島付近から本州南岸までの黒潮輸送水塊の平均構造が、黒潮再循環と関連付けてはじめて明らかになった。黒潮再循環によって東方から移流される亜熱帯モード水、北太平洋中層水の、九州〜四国沖での黒潮への流入等がとくに注目される。今後、研究期間中に実施した研究船による集中観測データの解析結果も総合して、本研究の結果をさらに定量化する。また、輸送水塊の時間変動について、大気海洋系の変動とも関連付けて調査を進める。
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