研究概要 |
長崎半島の中央部に位置する八郎岳(標高590m)の南斜面は,非常に深く急峻な谷地形になっている(以下,これを千々谷と記す)。この谷は南に開いているため,海上から流入する南寄りの暖湿な気流を効率よく強制上昇させ,新たな降水雲を形成させる可能性を暗示する。また,長崎半島付近の海域で発生した降雨セルは,しばしば東進して雲仙岳の火山性土石流の元凶となっており,長崎半島の地形は島原半島方面の豪雨とも無関係ではない。このような観点に立ち,長崎半島付近における降水雲の発達過程に関する観測と解析を行った。解析結果の概要は以下の通りである。 (1)本年度(1997年)の観測においても,梅雨期末期の7月1〜11日のあいだに5日間にわたって,長崎半島付近から顕著な持続型ライン状エコーが出現していることが観測された。それらは,いずれも南寄りのやや強い海風のもとで発生し,ラインの走向は上空の風向(3〜5km)と一致していたことから,千々谷原因説と整合する。 (2)7月5日の場合には,千々谷に対応する持続性の強いライン状エコーのほかに,弱いながら,それに平行な走向をもつ第2のラインと第3のラインも観測された。それらのライン状エコーも南側に開いた2つ谷(大浜谷,黒崎谷)と対応することが確認された。これらの弱いラインの出現は,千々谷の地形効果仮説を強く支持している。 (3)7月11日の場合は,梅雨前線の北上と,長崎半島からのライン状降雨の発生が,ほぼ同時に発生したため,島原半島の瑞穂町で1時間69mmの大雨を記録した。また,この日は前線の通過後15時間以上もライン状エコーが維持されたため,諫早市の東部で日雨量250mm以上の豪雨となった。このようにライン状エコーが豪雨災害の原因となる可能性を秘めていることも次第に明らかになってきた。
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