大気重力波に伴う移動性電離圏擾乱をEISCATレーダーデータに基づき解析している。熱圏における大気重力波の鉛直構造を調査するとともに、大気重力波に対する電離圏プラズマの応答機構を検討し、もって熱圏に於ける大気重力波擾乱のエネルギー収支を解明することを目的としている。 とくに前項の解析に於いては、大気重力波によく追随しているイオン温度観測データに注目している。そのイオン温度相対変動量に関するスペクトル解析を通じ、大気重力波の卓越成分を抽出し、さらに波動パワーの高度プロファイルを調査している。結果、高度100〜240km領域における周期25〜250分の大気重力波について、鉛直方向減衰率を決定することに成功した。得られた8×10^<-6>〜4×10^<-5>m^<-1>という減衰率、さらにそれらが波動周期に対して弱い正相関となっていることは、エネルギー散逸を考慮に入れた現実的な熱圏モデルによる計算結果とよく一致しており、熱圏中の大気重力波の基本的振舞いは、大気粘性や熱伝導、イオンドラグ等よく知られた散逸過程を踏えた上でのエネルギー保存状態にあることが、観測的に証明されたことになる。しかし、ほとんど常に、事例毎に異なる高度で、パワープロファイルがエネルギー保存状態から一部はずれる事も明らかとなり、大気重力波のエネルギーが背景場に供給されている印と目され、今後の重要課題の一つが提起されるに到っている。
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