EISCATレーダーで観測された極域電離圏プラズマパラメーターデータに基づき、Eおよび下部下領域における電離圏構造と大気重力波擾乱を解析し、熱圏におけるエネルギー収支の解明を目指し研究がなされた。 得られた成果は、(1)下部電離圏中のイオン組成モデルの構造と、(2)大気重力波に伴う擾乱の鉛直構造の解明にある。まず、イオン組成モデルに関しては、利用可能な大量の観測データ(イオン温度)に基づき、磁気的静穏状態における日変化、季節変化を考慮したモデルの構築に成功している。これにより、大気重力波励起の主要候補の一つである磁気圏からのエネルギー流入による電離圏加熱の現象が正当的に定量化できる基盤が与えられたと考えられる。次に、大気重力波によって持ち込まれたエネルギーや運動量が下部熱圏においてどのように散逸されるかを知ることは、熱圏におけるエネルギー収支の解明において重要な鍵であるが、本研究では擾乱パワーの高度依存性を定量的に評価することによって、大気重力波の鉛直方向減衰率を観測的に同定することに成功している。さらに、その減衰率が大きく変化し過剰なエネルギー散逸を起している領域が、背景中性風の主要成分(日変化や半日変化など)の遷移領域と合致していることも示され、大気重力波と背景風とのカップリングの課題を実測データに基づき浮き彫りにすることができた。
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