断層粘土を利用した新しい断層活動性評価指標を研究・開発することが本研究の目的である。今年度は、これまで予備的に研究を行ってきた野島断層の調査を再度行い、野島平林露頭において断層粘土試料を採取した。採取した試料はふるい及びフィルターによってミクロンオーダーで細分し、各粒度ごとにX線回折分析、ESR測定及びγ線照射実験、蛍光測定、原子吸光及びICP-MS分析を行った。その結果、断層破砕物質の細粒化に伴い長石類などの源鉱物はモンモリロナイト等の粘土鉱物へと変化し、モンモリナイト固有のESR信号から求まる総被曝線量は増加していくことが判明した。また分光測光器による計測の結果、紫外線励起により断層粘土試料から放出される蛍光には、可視光から紫外線まで様々な波長の光が含まれており、脆性破壊により石英に形成されるESR信号(NBOHC)と赤色蛍光(約670nm)との関係を今後詳しく検討していく予定である。 一方、主要及び微量元素の定量分析の結果、粘土化の進行に伴う主要元素の顕著な変動は見られない反面、微量元素は濃集する傾向があることが示された。これは、結晶表面が負に帯電しているモンモリロナイトが陽イオン化した微量元素を吸着するためと考えられる。天然放射性元素である^<238>U及び^<232>Thも濃集傾向を示すが、両者の比(^<238>U/^<232>Th)はほぼ一定であり、断層破砕帯は粘土化の際にも閉鎖系が成り立っていたことを示唆している。これに対して、^<232>Thとその安定核種である^<208>Pbの比(^<208>Pb/^<232>Th)は粘土化に伴い減少する傾向を示しており、^<232>Thが崩壊して^<220>Rnに変化する過程で不活性ガスであるRnが放出された可能性を示唆している。今回の研究から、放射性元素の同位体比を比べることにより、これまで困難であった断層破砕帯における元素の移動状態を判定できる可能性が出てきた。
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