研究概要 |
平成8年度の調査は九州において、従来下末吉期とされている海成層の野外調査を実施した.特に,これらが本当に海成層であるか,時代が下末吉期であるかの確認に重点を置いた.対象となった地層群は,北九州市の正津浜層,諌早地域の下釜貝層,玉名地域の長州層,島原半島南部の大江層,天草地域の釜層と小串層,鹿児島地域の城山貝層と吉田貝層,大隅地域の夏井層と大根占貝層,種子島の竹之川層,屋久島の海成層,宮崎の三財原層と通山浜層,日向市の海岸段丘層,大分地域の大在層と岡層,中津市の海岸段丘層,行橋市の海岸段丘層である.環境と層序を見直して柱状図を作成し,地層中の火山灰を洗い出して火山灰層序を決定した.また,設備費で購入したレーザー測量機を用いて測量し,海成層の上限高度を決定した. この結果,調査対象とした19の地域の地層群のうち,地表露出のある下末吉期海成層は大江層,城山貝層,夏井層,大根占貝層,竹之川層上部,屋久島の海成層,三財原層,岡層上部の8層だけとなった.下末吉期海面高度は酸素同位体比が現在と同じなので現在の海面高度とほぼ同じと見なされる.したがって,下末吉期海成層の地表露出のある地域は明らかに地殻運動における上昇地域である.残りは下末吉期より古い海成更新統や非海成層であった.海岸付近の平坦面の多くは海成ではなく、河成段丘あるいは火砕流台地であった. 予察的調査の結果,北九州市,福岡市,津屋崎町,柳川市,佐賀市,鹿島市,岱明町,熊本市,八代市,阿久根市,川内市,加世田市,延岡市,佐伯市,臼杵市,行橋市では地下にのみ下末吉期海成層が存在することが判明した.これらは沈降地域である可能性が強い.平成9年度の主な目標はこれらの地域の海成層の上限高度とその火山灰層序を明らかにすることである.
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