遠洋深海堆積物は、一般に1000年で1-数ミリメートルの堆積速度で沈殿した物質で構成されている。従って、年代が判明しているこれらのコアサンプルは、新生代の地球科学の研究に適する。我々は、中央太平洋海盆北部のマジェラントラフから採取された12本のピストン・コアサンプルを本研究用として使用した。マジェラントラフには、5000-6000mの深海底に、遠洋性粘土、ゼオライト質粘土、さらには珪質粘土が分布している。研究の目的は、コアサンプルを構成している主要な微細鉱物、特に粘土鉱物の鉱物・化学的研究により、新生代における地球環境変動の歴史を考察しようとするものである。本研究に使用した分析機器は、X線回折計(XRD)と透過型分析電子顕微鏡(ATEM)である。分析の結果判別できた粘土鉱物は、スメクタイト、イライト、クロライト、カオリナイトの4種類であった。また、非粘土鉱物は、セキエイ、チョウセキ、カルサイトにクリノプチロライトが同定された。これらの微細鉱物組成の検討の結果、12本のコアサンプルは、コアサンプル全体にスメクタイトとクリノプチロライトが卓越するグループと、スメクタイトは古第三紀に卓越するが、中新世以降減少を始め、それに代わってイライト、クロライトやカオリナイトが増加し始めるグループに大別される。この後者のグループにはクリノプチロライトは含まれていても少量である。この2グループの鉱物組成と化学組成、さらには粘土鉱物の形態観察から以下のような、研究海域及び関連する陸域での新生代の地球環境変動史が推定される。始新世から漸新世までは、研究海域の海底では、スメクタイトやクリノプチロライトの自生鉱物が、火山ガラスから多量に生成される環境にあった。この過程では、生物源シリカが、これらの鉱物の生成に少なからず寄与したことがうかがえる。中新世以降、特に鮮新世では地球的規模の気候変動(寒冷化)により、大陸の砕屑性鉱物の大気運搬量が強まり、海底自生鉱物量は薄められてきた経過が判明した。しかしながら、第四紀末では、砕屑性鉱物の搬入が減少し、環境の変動を暗示している。
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