研究計画に沿い、これまで詳細な検討がなかった日本海側における鮮新世の軟体動物群について検討した。今年度は特に秋田県の天徳寺層、富山県の三田層の層序を詳細に検討し、各層の年代を明らかにした。また、各層から定量的な軟体動物群を採集し、解析を行なった。 秋田県協和町の天徳寺層は石灰質ナンノプランクトン化石により、ほぼ4-2Maに堆積した事が明かとなった。31産地より175種の軟体動物化石が採集、識別され、70種が種まで同定された。23種もの暖流系種を含み、大桑・万願寺動物群の特徴種も多く含むことが明かとなった。また、自生的な産状を示す群集は、下部浅海域に生息する寒冷な種によって占められ、外洋性暖流系種の多くは他生的産状を示す。さらに、多くの暖流系種を産出するのと対称的に中新世からの残存種はわずかに1種しか見られない。 富山県婦中町から八尾町にかけての三田層は絶対年代により、5.2-3.4Maに堆積した事が明かとなった。10産地より軟体動物化石を採集し、三田層下部からは57種、上部からは70種を識別した。三田層下部産軟体動物群中には内湾性の上部浅海域の群集が認められ、上部からは下部浅海域の群集が認められた。下部の群集中には長野県の下部鮮新統萩久保層(4-3Ma)の軟体動物群との共通種が多く見られ、中新世からの残存種も認められる反面、暖流系は含まれない。一方、上部の群集は中新世からの残存種は認められず、多くの暖流系種を含む。 両層産軟体動物群化石とこれまで研究してきた長野県の萩久保層の軟体動物群中の残存種と古環境の関係についての結果を総合すると、内湾性の寒冷な群集中に中新世の残存種が見られ、外洋性の暖流系種を含む群集中には残存種がほとんど認められないことが明かとなった。
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