研究概要 |
本研究の結果、日本海側の4-3Maの軟体動物化石群は、大きく2つのタイプに分類されることが明らかになった。1つは長野県の荻久保層、城下層、富山県の三田層下部などの内湾性群集である。この群集は寒流系種が卓越し、寒流系種をほとんど含まず、中新世型の残存種を多く含むといった特徴をもつ。2つ目は秋田県の天徳寺層、新潟県の鍬江層、富山県の三田層上部の外洋性軟体動物化石群である。この化石群中には多くの暖流系種が含まれ、中新世型の残存種はほとんど含まない。 上記の地層が堆積した4-3Maは、それまで閉ざされていた対馬海峡付近が開き、暖流の流入があった時期と考えられるが、直接暖流の影響を受けた外洋域で中新世型の浅海性種の絶滅が生じた。このため、天徳寺層、鍬江層、三田層上部の軟体動物群中には中新世型の残存種がほとんど認められない。一方、特に信越地域には北に開いた内湾が存在し、このため、これらの地域の軟体動物群集中には暖流系種が少なく、残存種が生き残った。 Sato and Kameo(1996)により、北半球の寒冷化が2.78Maに生じたとされている。こうした、寒冷化にともなって、日本海側をMacoma属やVolutomitra属が南下した(天野,1996,1997)。下部浅海帯以深に生息するPortlandia toyamaensis,Ancistrolepidinae,Neptuneaなどはこうした暖流による影響や寒冷化の影響を受けていない(Amano,1996;Amano et al.,1996;天野,1997MS)。これらのことからも4-3Maにおける中新世型種の絶滅と残存は上部浅海以浅の海洋気候変動によるものであることが裏付けられる。 本研究により、上部浅海域では内湾域が外洋域に比べ、環境変動を受けにくく、生態的な避難所となりうることが判明した。
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