研究概要 |
本年度は本研究の最終年度にあたるので、これまでに行ってきた野外調査のほかに、国内の多くの研究機関を訪れて、研究資料の収集や標本類の調査、他の研究者との討論や意見交換など、研究成果の取りまとめに向けての研究活動を重点的に行った。一昨年度と昨年度には、本研究の成果の一部を、裏面の研究発表の欄にあげた4篇の論文にまとめたが、これらの論文では、本州中・西部における絶滅現象をこれまでのデータをもとにまとめたり、広島県帝釈峡遺跡群における哺乳類の大きさ変化と絶滅現象を含む動物相の変化との関係を論議したり、九州北部における後期更新世の絶滅種を含む動物相の実体を明らかにしたりしている。本年度は、このような成果をさらに発展させ、日本のより広い地域で多方面から絶滅現象の実体にせまるためのデータ収集を行った。その成果はまだ論文化するに至っていなが、すでに多くのデータが集まっているので、遂次論文化していく予定である。また、本年度はわが国での絶滅現象をより広い観点から検討するために、諸外国での第四紀末の絶滅現象に関するデータを収集し、その内容の分析を行った。諸外国では、このような現象の原因を説明する学説に、後期更新世〜完新世の環境の激変に原因を求める環境変化説と旧石器時代人の狩猟によって哺乳類が狩り尽されたとする過剰殺戮説が唱えられてきたが、近年は両者の折裏説とも言うべき環境変化・過剰殺戮複合説も提唱されている。わが国でこれまでに収集したデータによると、わが国では後期更新世の豊富な動物群の中から、大型種を中心に絶滅が起こり、それらの種の消滅によって完新世の貧弱な動物相に移り変わったと考えられるが、それらの絶滅期は20,000〜10,000年前に集中し、その絶滅は南北アメリカで起こったもののように急激ではなかったことが明らかになった。また、石器や土器の変化から推定される人類の文化の変遷も、この時期には徐々に起こっており、絶滅のパターンとの対応が見られる。このようなことから、わが国での絶滅は、諸外国で提唱された環境変化説や過剰殺戮説では十分に説明できないことが予測される。
|