研究概要 |
ガラス状石灰質有孔虫の殻壁には,微粒状,粒状,そして放射状の組織のあることが知られている.このうち,微粒状と粒状組織は類似しており,ジグソ-パズル状の結晶単位の大きさや見掛け上の複雑さによって識別されてきた.このような見掛け上の殻壁組織は,石灰質のなかでもガラス状を呈する有孔虫群の系統分類学的な規準として利用されてきた経緯がある.しかし,この規準による分類では,形態的にみて極めて類似した分類群が系統的に異なった位置に置かれてしまったこともあり,殻壁の分類規準としての評価に問題が少なからず存在していた.しかし一方で,微粒状と粒状組織を有す分類群は,たとえば微粒状組織が殻壁の厚いものよりなり,粒状は比較的殻壁の薄いものよりなることが指摘されていた.とくに,粒状組織のなかでも粒状ジグザグ組織と粒状モザイク組織の違いは殻壁の厚さによるところが大きいと考えられる.したがって,上述のような有孔虫の殻壁の結晶単位の大きさまたは見掛け上の組織が,基本的に殻壁の厚さによるものであるとしたら,その関係を明確にしておく必要があった.そのため,3つの組織(微粒状,粒状モザイク組織,粒状ジグザグ組織)を有する有孔虫種をそれぞれ選び,幼殻から成体殻の最終殻壁の組織と厚さについて計測を行った.この殻壁組織に関する定量方法や定量化したことによる系統的復元や環境への影響評価については,これまで全く研究例がなかったため,本研究によってこのような分野を進展させることができた.さらに,ここで得た結果を利用して有孔虫の生態との関係を求めたが,結晶単位は深内生の種が浅内生または表生より大きいこと,堆積物中の有機物量の多い所の種の方が少ない所のものより大きいことが明らかとなった.また,有孔虫種の生活スタイルを反映していることにも言及できるようになった.
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