研究概要 |
本年度では,沖縄トラフ水深1058mから採取されたピストン・コアBO94・20PN3を重点対象にし,詳細な浮遊性有孔虫殻のAMS14C放射年代測定を行い,同時に24,000年前までの層準における浮遊性有孔虫化石群集の解析もおこなった.その結果,黒潮特徴種G.glutinata,G.ruber,G.sacculifer,P.obliquiloculata,中央水塊特徴種G.inflata,G.truncatulinoides,低塩分/冨栄養水体の特徴種G.quinqueloba,N.pachyderma(d),N.dutertreiが最終氷期以来時代の変遷とともに それらの産出頻度も著しく変化したことが分かった.これまでの東シナ海北部と沖縄トラフ北部の水深800〜1000mの海底から採取された柱状堆積物に含まれる浮遊性有孔虫化石群集の組成変化と比較した結果,北西太平洋の縁辺海である東シナ海の東部における環境変遷は以下のように明らかにした:北部では最終氷期から16,000年前までは表層水の温度は現在より低く、栄養レベルの高い水塊であった。16,000年前から10,000年前までは、表層水温は徐々に高くなり、塩分が非常に低下した時期であり、10,000年前から6,000年前までは表層水温著しく高くなったと推定される。7,000か6,000年前から現在にかけては、表層水状況は現在とほぼ変わらず、水温が高く、栄養レベルがやや低い状態であったと考えられる。推算した表層水温は最終氷期から完新世にかけて、約5℃の差があった。一方,南部では,氷期・氷消期において低塩分水の影響が弱く,表層水は低温/高栄養塩のものと推定される.このことから氷消期の低塩分水の流入は北(古黄河)起源であると考えられる.また,氷期・氷消期においては黒潮の影響が弱まり,変わりに北西太平洋中央水塊の勢力は強まった.約10,000年前から黒潮の影響は顕著になり,8,000-7,000年前以降は、その強い影響は安定していたことが分かった。海水準100m低下した最終氷期からの東シナ海の古環境変遷は 海水準の大規模の上昇に伴った海岸線,河口の位置的な変化,陸からの淡水流入量の変化,赤道太平洋から流入した黒潮の強さ及び流路の変化にコントロールされ,気候変動に伴った陸と海の複雑な相互影響を反映したものである.
|