研究概要 |
埋没林・森林泥炭から森林・植生の更新および構造解析を行うための方法を開発するために,秋田県大館市池内遺跡と長野県軽井沢町成沢の火山灰に覆われた埋没林・森林泥炭(埋没土壌を含む)を研究対象として取り上げ,以下のような成果を得た。また,津軽西海岸の車力村において新たに完新世初頭の埋没林を発見したので,あわせて研究対象に取り込み,森林植生の構造復元と歴史的位置づけについても検討した。 1.秋田県大館市池内遺跡では約13,000年前の八戸テフラ(火砕流)に覆われた森林・植生の復元と樹齢・年輪成長パターン解析を中心とした年輪年代学的検討を行った。トウヒ属の全年輪試料はすべてについてクロスデイティングでき,最終形成年輪の形成年の一致を試みた。十和田火山東方の同じ八戸テフラ下の埋没林で作成したトウヒ属の標準年輪指数とクロスデイティングでき,十和田火山東方の埋没林と同じ年に死滅したことが明らかになった。最終形成年輪の観察から,ある年の秋から次の春までの間に死滅したことが明らかとなり,死滅季節も十和田火山東方の埋没林と一致した。このように,年輪年代学的方法の埋没林研究の導入によって,同年・同季節の生態系を構造的に捉えることができ,数百kmに及ぶ森林の構造復元が可能であることを示した。 2.長野県軽井沢町の埋没林・森林泥炭について,花粉分析・大型植物化石分析・木材組織解剖を行った。その結果,すでに明らかになっていたトウヒ・モミ・マツ各属からなる針葉樹林は,湿地的環境ではマツ属が卓越し,微高地的環境ではトウヒ属が卓越するという組成・構造変化をすることが明らかになった。 3.西津軽郡車力村の完新世初頭の埋没林は,約7,000〜8,000年前のブナ林であることが分かり,樹齢100〜150年の成長速度が著しく早い初期的ブナ林の構造を明らかにした。
|