2年計画の初年度にあたる本年度は、まずこれまでに蓄積していた研究成果を整理し、両白山地の白山南方の毘沙門岳(標高1386m)の安山岩類中に全岩と普通輝石斑晶とで^<87>Sr/^<86>Srと^<143>Nd/^<144>Ndの同位体比が異なるものが存在することを確認した。それに基づいて、毘沙門岳北部の峠沢支流の一露頭から約20kgの安山岩を採取した。通常の岩石学的研究目的で採取する試料は概略1kg(以下)であるが、今回は岩石中に少量しか含まれない斑晶を分離・抽出しなくてはならないので大量の岩石試料を準備したわけである。 MgとFeの拡散速度に基づいてマグマ混合後の経過時間と普通輝石斑晶のMg/Fe比の関係を決定するために、普通輝石斑晶の累帯構造を明らかにすべく、X線マイクロアナライザー(EPMA)によって大量の普通輝石斑晶を分析し、また二次電子像を観察した。完全定量分析だけでも3000ポイント以上分析した。その結果、普通輝石の化学組成は中心から周縁部に向かって単調に変化しているのではなく、幾つかのセクターに分かれているらしいことが判明した。また、毘沙門岳火山で活動した混合マグマの端成分が2つではなく3つ以上存在した可能性が示唆された。約20kgの安山岩試料を粉砕し、アイソダイナミックセパレータ(電磁分離器)を用いて普通輝石斑晶を分離・精選し、Mg/Fe比の異なる10種類ほどのフラクションに分取した。岩石粉砕時の最適粒度は試行錯誤であり、ヨウ化メチレン(重液)を併用した分離・精選にもかかわらず未だ十分に満足のいく純度の普通輝石斑晶は得られていないが、慎重に分離操作を繰り返せば、それぞれ100〜200mg程度のフラクションが得られる見込みである。
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