和歌山市東方部、兵庫県三原群南淡町沼島、高知県白髪山周辺部の三波川変成帯の蛇紋岩と、それに関連するトレモラ閃石岩などの岩種について、その産状を調べた。トレモラ閃石岩は泥質片岩と互層状、あるいは泥質片岩中に径数cmから数十cmのレンズとして認められ、しばしば蛇紋岩の岩体が近傍に認められる。産状は周囲の泥質岩と極めて調和的である。これらの岩石類はザクロ石帯や黒雲母帯などの変成度の高い部分に集中して認められた。 上記野外調査で採取した岩石試料を蛍光X線分析装置によって分析し、全岩組成を求めた。マントルカンラン岩に相対的に多く含まれるNi、Cr、Mg、Coなどの元素、泥岩に多く含まれるZr、Th、K、Rb、Baなどの元素の存在量を対比・検討することで、(1)トレモラ閃石岩は、NiやCrを蛇紋岩と同程度含み、カンラン岩起源と考えられること、(2)一部に、泥質岩とカンラン岩が様々な程度に機械的混合を起こした岩石(混合岩)が存在すること、の二点が明らかになった。 活動的沈み込み帯である伊豆-小笠原、マリアナ沈み込み帯における最近の成果を考慮すると、三波川変成帯における蛇紋岩や関連する岩石種の産状は、沈み込むプレート上の含水堆積物から供給される水が上盤マントルを蛇紋岩化し、その蛇紋岩を付加過程ではぎ取り、取り込んだ状況を示している可能性が高いことを示唆している。
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