研究概要 |
本研究においては,チャートが卓越した累層中に胚胎され,わが国の別子型鉱床としては特異な存在である丹波帯の滋賀県土倉鉱山の鉱石中の黄鉄鉱と黄銅鉱と母岩について硫黄同位体比の測定を行って,以下のことが明らかになった。1.およそ40個の測定試料の同位体比の分布範囲は-0.8〜+5.4パーミルであったが,大部分のものは,+1〜+3パーミルの範囲にあり,三宅・佐々木(1980)の結果とよい一致を示した。この分布範囲は,また,三波川帯の主要な別子型鉱床の分布範囲とよく似ている。2.黄鉄鉱には自形で粗粒なものや,コロフォルム組織を示すものなどがあるが,硫黄同位体比と硫化鉱物の産状との関係も明らかではなかった。3.共存する黄鉄鉱と黄銅鉱について,11対のうち,6対において,黄銅鉱の方が黄鉄鉱より重い結果が得られた。これは,両鉱物間には,同位体交換平衡が成立していないことを示す。ほとんどの他の別子型鉱床においては,同位体平衡を示唆する結果(黄鉄鉱が黄銅鉱より重い)が得られており,本鉱床の結果は,鉱床が形成後,再編成されたものであることを示唆する。4.母岩のシルト岩,砂岩および玄武岩質岩の硫黄同位体比の測定を行って,-49.3〜-2.6パーミルの値を得た。変動幅が大きく,また,非常に軽いこれらの値は,硫酸還元バクテリアが関与したことを示唆するが,玄武岩質岩の同位体比も,同様に非常に軽い値をもつことは,海嶺玄武岩の硫黄同位体比が,+1パーミル前後であることを考えると,特異である。 今後,四万十帯の徳島県浅川鉱山および奈良県五條鉱山,秩父帯の高知県名野川鉱山,御荷鉾緑色岩類中の愛媛県大久喜鉱山の鉱石について,さらに硫黄同位体比の測定を行い,土倉鉱山の結果と併せて,三波川帯の主要な別子型鉱床と比較して,考察を進めたい。
|