結晶の形は、たとえ同一種の結晶であっても様々な形で成長する。本研究ではNaBrO_3を試料として結晶の形(晶相)が成長条件によってどのように変化するかを調べてきた。このテーマは成長の素過程に関連した興味ある問題であると同時に工業的にもまた地球科学にとっても重要なテーマである。本年度はこの科学研究費の最終年度にあたる。いままでに(1)ノンドープの水溶液からの成長における晶相変化、(2)酢酸1.15mol.%ドープおよび(3)酢酸2.8mol.%ドープの場合に就いて研究してきたが、本年度は酢酸ナトリウム1mol.%ドープの場合に就いて研究した。不純物としてこれを選んだ理由は、酢酸を不純物とした場合にはこれの一部がNaBrO_3と反応して、少量の酢酸ナトリウムが生成されることがわかり、どこまでが酢酸の不純物効果で、どこからが酢酸ナトリウムの効果なのか区別できなったからである。つまり酢酸ナトリウムだけの効果を調べる目的で研究を行った。また酢酸が溶液を酸性にするのに対し、酢酸ナトリウムはアルカリ性にするということにも注目した。結晶成長は今までと同様、温度制御できる顕微鏡用加熱・冷却ステージを用いて行った。結果は縦軸に成長温度、横軸に過飽和度をとったダイアグラム(モルフォドロム)にまとめた。これをノンドープあるいは酢酸ドープのものと比較した。その結果、過飽和度によらずcubic habitのほうがtetrabedral habitよりも高温側で形成されるという傾向はノンドープおよび酢酸ドープの場合と同様であるが、その転移温度は約25℃であった。この値はノンドープの34℃や酢酸ドープの4℃に比べてかなり低かった。またintermediate habitの形成領域(低過飽和度側)は他の場合に比べてずっと広いという特徴があった。酢酸ナトリウムには{100}面に吸着しやすくこの面の成長速度を遅らせる効果があると考えられる。
|