化学物質の構造とその活性の間には線形で記述できないような複雑な因果関係があることが広く知られている。これを化学物質の構造活性相関という。従来これらの非線形的因果関係の解析には主に重回帰分析が用いられてきた。しかしながらもともとこの相関は非線形性が強いので、従来の線形の関連を期待する統計的手段を適用するには限界がある。本研究では生体の有する高度な情報処理プロセスをシミュレートするニューラルネットワークの特徴である非線形的な動作に注目し、その化学物質の構造活性相関への適用と展開を目的とする。 平成9年度は平成8年度にひき続き、作成したシミュレータを用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の研究を行なった。またニューラルネットワークの偏微分方程式的な記述をもとにした再構築学習法とパラメータスキャン法を用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の因果閑係の解析を行なった。 従来のバックプロパゲーション法では、教師データ近傍の予測精度は高いが教師データ間の中間領域の予測は学習方法による事が知られており、しばしば不定となる。そこで、データ間の距離を明示的に含む自己組織化の手法をニューラルネットに取り込み教師データ間の中間領域の予測精度を向上させることを試みた。自己組織化を取り込むことで、学習方法によらない分類が可能となることが示された。 さらに、化学分野に限らず広く振幅と周波数が同時に変化する時系列データの予想に対しても新たにニューラルネットワークを開発し、ニューラルネットワークが従来の線形回帰法に比べ精度の高い予測を行うことが明らかになった。
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