本研究ではベンゾフェノンとジフェニルアミンとをメチレン鎖10個で連結した化合物(BP-10-DPA)の分子内光反応について、ビラジカル中間体寿命に対する外部磁場効果と同位体置換効果を検討した。実験には、天然組成体(Natural)、カルボニル炭素の重炭素標識体(13BP)、窒素末端メチレン基の重炭素標識体(α-13)の3種類を用いた。過渡吸収強度の時間変化に対する外部磁場効果および磁気同位体効果を検討したところ、1Tの時の寿命は零磁場の時の27倍にもなる非常に大きな磁場効果が観測された。これは磁場の印加によるゼーマン分裂により三重項副準位間の縮重が解け、三重項-一重項間の遷移が抑制されたためと解釈される。また0.1Tから1Tまでの高磁場領域では、明確な磁気同位体効果が観測された。今回得られた磁気同位体効果の大きさはこれまで報告されているうちで最大であり、天然組成体に比べて2倍以上のビラジカル減衰速度を示している。これは不対電子密度の高い部分を同位体標識したために異方的な超微細相互作用が増大し、緩和速度が大きくなった結果である。横軸に磁場強度の自乗、縦軸に同位体置換によるスピン格子緩和速度の増加分の逆数をとりグラフに直線関係を仮定すると傾きと切片から、重炭素置換による磁気的相互作用の増加分と回転相関時間を見積もることができた。本研究のように非常に大きな磁場効果・磁気同位体効果の現れる条件を検討することによって、磁場を用いたラジカル反応の制御や磁気同位体濃縮などにとって有用なデータが数多く得られた。
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