平成8年度は、5次光学過程における、振動モードの非調和振動子性について解析した。モデルとして量子ブラウン運動系を考え、非調和性を摂動論的に考慮し、2n+1次の光学過程に対する応答関係を、経路積分法を用い解析的に導出した。計算には慶応大学物理学科、福田礼次郎教授のアドバイスを受け、補助金の一部はその旅費にあてられた。その結果を用いて、CS2の5次の実験を、数値的に解析し、回転モードに弱い非調和振動子性が含まれる可能性を示唆した。数値計算には、補助金で購入した計算機付属品(ディスプレー、ハードディスク)が用いられた。これらの研究は、分子の振動モードに対するもので、さらに電子の励起状態まで含めた、配位した2つの非調和振動子についての、5次の光学過程について研究を行った。まず、5次の共鳴光学過程に関する応答関数を導出した。次に1、3次の応答関数を用いて、線形吸収、ポンププローブ、フォトンエコー等のスペクトルを数値計算計算し、非調和振動子性がスペクトルにどの様な影響を与えるかを調べた。さらに5次の応答関数の表式を用い、非調和振動子性の効果が顕著になる様な条件を調べ、非調和振動子性を温度や散逸といった他の効果から分離して測定可能とする、新たな共鳴5次光学過程のレーザー実験を提唱した。また、文献検索やプログラミングには、大学院生の補助を頼み、謝金を支払った。 これらの結果は、Journal of Chemical Physiscsに3報の論文としてまとめ、うち2報は掲載され、残り1報は現在審査中である。補助金の一部は、このうち一報の論文別刷り代として用いられた。
|