本研究では水の局所構造や微視的ダイナミクスを研究することを目的として、七次の非線形分光法であるラマンホールバーニング法を実験的・理論的に開発することを試みてきた。まず、理論的には非線形分光学の理論家である米国Rochester大学のMukamel教授と協力して以下のことを行った。(I)密度行列法を用いて水のダイナミクスと水のOH伸縮振動の位相緩和を記述する方法を展開したが、その際水の中の水素結合のダイナミクスと構造的な揺らぎの動的挙動を同時に考慮できるようにした。そしてラマンホールバーニングのシグナルの時間変化を与える一般的な式を導出した。(II)水のダイナミクスを調べる非線形分光法としてラマンホールバーニング法以外の方法、CARS(coherent anti-Stokes Raman Scattering)シグナルのスペクトル測定法の基礎的理論を発展させた。実験的には(I)OH伸縮振動のバンドに対して選択的励起を行うために時間幅、バンド幅(50cm^<-1>〜150cm^<-1>)を規定したレーザー光を得ることに成功した。(II)ラマンホールバーニング法では3発のレーザー光と3発のStokes光を必要とするが、この6発を入射する角度(位相整合条件)を実験的に決定した。(III)他の七次の非線形現象である倍音(v=3)のシグナルの観測に成功し、実際ラマンホールバーニングの実験が可能であることを示した。
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