本研究では、二重結合の光異性化と競争する分子内プロトン移動のダイナミクス、特に、過渡的に生じた互変異性体の励起状態(ピコ秒のオーダーの寿命)とその基底状態(ナノ秒のオーダーの寿命)の挙動を解明し、新規ホトクロミズム系の創製へと展開を図った。 ピロール環とキノキザリン環を置換したオレフィンは分子内水素結合を形成し、ベンゼン中でトランス→シス光片道異性化を起したが、異性体比は溶媒の著しい効果を受けた。また、シス体は光誘起水素原子移動を起し互変異性体を生成し、その蛍光が極めて長波長部に観測された。 2=-ヒドロキシカルコンは、三重項状態で断熱的な水素原子移動を起し、また、この効果により二重結合部位の断熱的なシス-トランス異性化を起すことを明かにした。 また、水素結合型フェナントロリン誘導体は、トランス→シス光片道異性化を起し、さらにそのシス体は水素原子移動を起し、蛍光が極めて長波長部に観測された。この系に金属イオンを添加すると金属イオンの配位によりシス体からトランス体への光異性化を効率よく進行し、水素結合と金属イオンの配位の組み合わせで光反応性を制御できることを明らかにした。 さらに、上記の水素結合系は互変異性体の蛍光の量子収量が10^<-3>のオーダーで小さく、この蛍光効率を増加させるため、ピロール環にホルミル基やシアノ基を有する化合物を合成したところ、蛍光の効率が無置換に比べて2桁から3桁も増加し、置換基の効率が著しいことも発見した。 以上の様に、二重結合と水素結合部位の2つの反応部位を有する一連の化合物を合成し、新規の断熱的な光反応系を構築し、また、反応のポテンシャル曲面を実験的に決定し、二重結合の異性化を起すか、分子内プロトン移動を起こすかを分子の構造因子と関連させて明らかにした。
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