共役7員環縮環化合物は、その特異なπ電子系ゆえ興味深い性質を示すものが多く、幅広い研究がなされてきている。しかし不飽和共役7員環の形成が困難で、そのほとんどが炭素鎖の導入、延長、縮環、脱水素等という長いルートを経て合成されている。市販のシクロヘプタトリエンを用い、トロピリウムイオンによる分子内求電子置換反応を利用するという簡単な方法で、興味深いπ電子系化合物であるトリフェニレン等電子カチオン、芳香族縮環アズレンのα、β-不飽和カルボニル化合物が合成できることを明らかにした。 1.トロピリウムイオン縮環系 以前にチオフェン環とトロピリウムイオンを含む4環性のトリフェニレン等電子的カチオンの極めて簡便な合成を報告したが、これを発展させることによりフラン環、チオフェン環或るいはピロール環とトロピリウム環とを同時に含む5環性のベンゾクリセン等電子的カチオンの合成に成功した。さらにチオフェン環を2つ含む系についても検討を行った。現在、トロピリウムイオンを2つ含むジカチオンについても検討中である。 2.芳香族縮環アズレンのα、β-不飽和ケトン誘導体 ベンズ[a]アズレンは、理論面、応用面から興味深い化合物であり、種々の合成法が報告されているが、いずれも長い合成経路を必要としている。我々はトロピリウムイオンの分子内求電子反応を利用することによりベンズ[a]アズレンのα、β-不飽和ケトン誘導体が簡単に合成できることを明らかにした。すなわち、ベンゼン環のオルト位に2-フリル基とシクロヘプタトリエニル基を有する化合物に、室温でトリチル塩を作用させるだけで、ベンズ[a]アズレンのα、β-不飽和カルボニル化合物が極めて簡単に得られることを見いだした。途中に生成するトロピリウムイオンによるフラン環の解裂とアズレン環の生成とが起こっているものと考えている。この反応を発展させることによりアズレノチオフェンのα、β-不飽和カルボニル化合物の合成法の開発にも成功した。今後、他の芳香環縮環アズレンに拡張すると共に、生成物の物性、反応性について調べたい。
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