新規TTF縮環系有機合成金属を開発するために次の研究を行った。 1.有機スズ化合物とMe_3Alの“複合化"による新規TTF縮環系ドナーの効率的合成法の確立 スズでマスクされたチオラートとエステルをMe_3Al存在下反応させる過程を経て、短段階で既知および新規TTF縮環系ドナーを合成できる方法を開発した。この合成法により、新規TTF縮環系ドナーとしてTTF-DHTTF縮環系ドナー、TTF-DTDT縮環系ドナー、TTF-DSDTF縮環系ドナーの合成に成功した。 2. TTF-DHTTF縮環系ドナーを用いた新規有機合成金属の開発 4種類のTTF-DHTTF縮環系ドナーから10種類の新規有機合成金属を見い出した。さらに、これらの新規有機合成金属の内、(EDDH-TTP)_2AuI_2塩の構造解析に成功し、2 : 1の組成を持つκタイプの金属的錯体であることを明らかにした。この構造を有する金属的錯体は、TTF縮環系ドナーを用いた金属的錯体では初めての例である。 3. TTF-DTDT縮環系ドナーを用いた新規有機合成金属の開発 4種類のTTF-DTDT縮環系ドナーから7種類の新規有機合成金属の開発に成功した。ジチアン環は構造的自由度を有する置換基であるが、TTF誘導体を縮環させることにより金属的錯体が得られることを明らかにした。 4. TTF-DSDTF縮環系ドナーを用いた新規有機合成金属の開発 5種類のTTF-DSDTF縮環系ドナーから4種類の新規有機合成金属の開発に成功した。現在のところ、この系から良質な単結晶は得られていないが、ペレットで活性化エネルギーの小さい値を示す錯体が多数得られている。 今後の研究課題は、得られた金属的錯体の構造を明らかにし、構造と物性との関係について解釈を施すことである。
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