研究概要 |
本研究では、分子内のヘテロ原子(N,S,Se,Te,Sn)同士が空間をとうし相互作用できる鎖状および環状化合物を設計、合成し、ヘテロ原子間相互作用により安定化、生成する新規なhypervalent(超原子価)化合物の単離、構造決定を行いその化学的挙動を明確にした。結果について以下に略述する。 分子内3中心相互作用による高配位化合物の合成を目的に、3個のヘテロ元素を含む環状化合物トリスセレニドを合成した。この環状トリスセレニドはCHC1_3中ではtwin-chair形であるが、H_2SO_4やNOPF_6で酸化すると容易にtwin-boat形になり、セレヌランジカチオンを生じる。このセレヌランジカチオンは二電子還元を容易に受け、中性のトリスセレニドに変化する。トリスセレニドはSe原子間でのlone-pair反発によりchair形が安定で、酸化すると渡環結合によりboat形の安定なセレヌランジカチオンを生成し、二電子還元により中性のboat形になるが不安定のためchair形に変化する。このような酸化還元反応における構造変化は、電極反応においても見いだされた。一般にセレヌランはアピカル位が電気陰性基である、酸素、ハロゲンから成るが、セレヌランジカチオンはアピカル位にセレノニウムカチオンを持つセレヌランで、Se-Se-Se結合をもつジカチオンの存在を証明した最初の例である。更に、このセレヌランジカチオンのX線結晶構造を明らかにし、多中心結合の存在を証明した。
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