研究概要 |
2つのPt原子を4つの配位子が架橋したいわゆるランタン型二核白金錯体は,Pt原子の酸化数が+2価の場合にはPt-Pt結合がなく軸配位子も持たない.一方,+3価の場合には軸配位子とPt-Pt間の金属間結合とを有する.なかでも,ピリジンチオールを架橋配位子とする2価の錯体は,クロロホルムによって容易に酸化され3価錯体を与えるという特異な性質を示す.この錯体のランタン型骨格構造は,酸化還元に対して極めて安定である.我々は,金属間結合を持つランタン型錯体と金属硫化物イオンとの反応に興味を持ち研究を進めているが,ピリジンチオール類が架橋したランタン型二核白金錯体,[Pt^<III>_2Cl_2(R-pyt)] (R=H,5-methyl)と金属硫化物イオン(WS_4^<2->)との反応をクロロホルム中で行なったところ,直鎖状のS_4^<2->イオンが2つのランタン型ユニットを架橋した4核錯体,[(Cl-Pt_2(R-pyt)_4)-S_4-(Pt_2(R-pyt)_4Cl)](1)が生成することを見出した. 1はクロロホルム中での[Pt_2Cl_2(R-pyt)_4]とWS_4^<2->との反応以外にも,クロロホルム中での[Pt_2Cl_2(R-pyt)_4]とNa_2S_2との反応でも生成する.しかし,アセトニトリル中では同様の反応は進行せず,〔Pt_2Cl_2(R-pyt)_4]が還元されて[Pt_2(R-pyt)_4]が得られるのみである.クロロホルム中での〔Pt_2Cl_2(R-pyt)_4]とWS_4^<2->との反応(数分以内)はS_2^<2->との反応(数時間)に比べて速く,前者では中間にS_2^<2->を経ない反応経路が示唆される.S_2^<2->との反応では,一旦青色の沈殿を生じ,その懸濁液を攪拌していると徐々に赤色の溶液に変化して行くことにより,S_2^<2->により部分的に還元されたPt_2(R-pyt)_4骨格が溶媒のクロロホルムにより再酸化され,最終生成物として1を与えているものと考えられる.また,1のクロロホルム溶液は光に対して極めて不安定で,蛍光灯程度の光でも速やかに[Pt_2Cl_2(R-pyt)_4]を与える。
|