これまでに本研究者は、配位不飽和な16電子錯体、Ru(arene)(SAr)_2(1)、を合成単離し、この錯体が2電子供与体と容易に反応することを見いだしてきた。平成8年度における研究においては、窒素固定に関連したアンモニア、ヒドラジンと錯体1との錯体形成およびこれらの配位したルテニウム錯体の構造解析を系統的に研究し、窒素固定反応における配位不飽和鉄硫黄クラスター錯体の役割の一端に関する知見を得ることができた。 錯体1とヒドラジンとの錯体形成により、η^1-配位様式の18電子錯体、Ru(arene)(η^1-NH_2NH_2)(SAr)_2(2)、が得られた。ヒドラジン錯体についてX線構造解析を行った結果、配位していないヒドラジンよりもN-N結合の距離が短くなることを見いだした。さらにチオラートの置換基を代えることによりヒドラジンが架橋した2核錯体、[Ru(arene)(S_2C_6H_4)](μ^2-NH_2NH_2)(3)、が得られることを見いだした。錯体3のX線構造解析により、分子内のNH・・・S水素結合の形成が2核架橋構造の形成に重要な役割を果たしていることを明らかに出来た。さらに、錯体3のヒドラジンが、η^1-配位をとっていることをX線構造解析により明らかにしている。 さらに、カルゴゲンとしてセレン、テルルに注目しセレノラート配位子、テルロラート配位子を用いて錯体1に対応した16電子錯体の合成を行った。セレノラート錯体とヒドラジンの反応を行いヒドラジンが1分子配位した18電子錯体、Ru(arene)(h^1-NH_2NH_2)(SeAr)_2(2)、が得られることを見いだした。また、系統的な研究によりセレノラート錯体は対応するチオラート錯体に比べ反応性に富むことがわかった。
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