Na_2[Fe(CN)_5NO]2H_2を極低温で光照射すると長寿命の準安定状態が得られることが知られており、準安定状態の生成は、鉄原子からπ^*(NO)への電子移動によるものと解釈されている。本研究では、準安定状態を示す物質の探索とその機構解明を目的として、NOを他のπ系の配位子やπ系でないアミン系の配位子で置換した錯体を合成し、液体ヘリウム温度において光照射を行いメスバウアー分光法により検討した。光照射には、波長458-514 cm^<-1>のアルゴンレーザーを用いた。Na_3[Fe(CN)_5L]xH_2Oで表される一連の錯体を合成した。π系の配位子としては、L=ピラゾール、ピロール、2-、3-及び4-シアノピリジンを、非π系配位子としてはL=NH_3 各種アルキルアミン類を用いた。これらの錯体試料を、メスバウアースペクトル測定用のクライオスタットに保持し、光照射後そのままメスバウアースペクトルの測定が行えるよう、ガンマ線の入射方向に対して垂直方向に窓を開け、レーザー光を通すための石英板を装着した。シアノピリジン系錯体について液体ヘリウム温度においてアルゴンレーザーを照射し、その後メスバウアースペクトルの測定を行ったが特に変化は認められなかった。さらに、EuK[Fe^<ll>CN_6}4H_2 についても同様な実験を行ったが、スペクトルはシングレッドのままであった。測定後試料の形状や色調について調べたところ、いずれの試料もスポット的な変色が観測された。これはレーザー光の強度が強いためと考えられるが、変化量を多くするためには照射時間を多くしなければならないし、また、多くすれば熱的な変化を受けてしまうという問題を生じる。今後、試料を薄膜化し変化量が少なくても変化が分かりやすくするなどの工夫が必要であることがわかった。
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