研究概要 |
研究計画に記載した方法によりC_2軸性不斉を持つ(R)-1,1'-binaphthyl骨格を2つあるいは1つ有する光学活性クラウンチオエーテル配位子(R,R)-Binaph_2Me_4[18]S_4(1)、(R)-BinaphMe_6[17]S_4(2)および(R)-BinaphMe_4[13]S_3(3)を合成した。また、これらを配位子とする光学活性クラウンチオエーテル銅(I)錯体を合成し、その構造を明らかにすると共に、それらを触媒とするスチレンのジアゾ酢酸エチルによる不斉シクロプロパン化反応を検討した。 室温下塩化メチレン中、1と[Cu(CH_3CN)_4]ClO_4との反応で淡黄色結晶の[Cu{(R,R)-Binaph_2Me_4[18]S_4}]ClO_4(4)を得た。4は二重螺線構造を保持してup-down-up-down立体配座をとり、中心銅原子は配位子1の3つの硫黄原子とClO_4^-アニオンの酸素原子の1つが配位した歪んだTd構造をなす。一方、4の^1H-NMR(CDCl_3)は25℃においてD_2対称な構造を示し、温度変化^1H-NMRの結果は-25℃から-60℃の間で徐々にブロードなシグナルを与え、溶液中では硫黄配位子と銅原子の間ですばやい結合の交換が起こっていることを示唆する。2と[Cu(CH_3CN)_4]ClO_4との反応は淡緑色結晶の[Cu{R)-BinaphMe_6[17]S_4}]ClO_4(5)を与え、5の構造は4と同様に中心銅原子に3つの硫黄原子とClO_4^-アニオンの酸素原子の1つが配位した歪んだTd構造をとる。3と[Cu(CH_3CN)_4]ClO_4との反応は淡黄色結晶の[Cu{R)-BinaphMe_4[13]S_3}]ClO_4(6)を生成した。25℃における3の^1H-NMRは2本のMeプロトンと6本の芳香族プロトンと共に、CH_2プロトンがブロードに観測される。また、0℃ではすべてのシグナルがブロードで識別できなくなり、温度変化^1H-NMRは溶液中における6の銅原子と硫黄原子の間の結合交換が、配位子1や2に比べ遅いことを示し、銅イオンへの配位力の強さは1<2<3の順に大きいことを示唆する。 これら銅(I)錯体を不斉触媒とするスチレンのジアゾ酢酸エチルによる不斉シクロプロパン化反応はそれぞれ相当するcis-およびtrans-シクロプロパン誘導体を良好な収率で与え、特に6は配位子3との強い配位を反映して比較的良い不斉触媒能を示し、立体選択的にtrans体を91%で生成し48%eeの光学収率を示した。
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