化学的に性質の異なる化学種を結晶中に共存させることは、通常の溶液からの結晶化法では溶解度の問題から困難であることが多い。一方、機能性物質を開発する観点から言えば、例えば一次元金属錯体のカラム構造と有機伝導体カラムを共存させ、両カラム間で電子移動と構造ダイナミクスを誘記させることは興味深い問題である。このような異種成分を含む結晶作成法の一つとして分子線を用いた物理化学的な方法が考えられる。しかし、金属錯体イオンは熱的に不安定で蒸気圧が低いため通常の分子線の手法を使うことができず、金属錯体イオンを含む溶液を真空中に霧状に放出して差動排気により粒子サイズを原子レベルまで小さくする必要がある。 低分子化合物を含む溶液を真空中に放出して分子線とする研究は九州大学(分子化学研究所)の西教授らによって行われている。西らの製作した分子線装置を詳細に調査した結果、我々の目的とする金属錯体イオンの分子線化に基本的に利用可能であることが判明した。このため、西らの装置を参考に、(1)ノズルの先端をできるだけ細くして100℃程度に加熱する、(2)真空槽は2室として両室の間はスキマ-でつなぐ、(3)真空槽第1室は低真空領域で大きな排気特性を持つエゼクターポンプを用いて低真空に排気する、(4)第2室は排気量の大きな油拡散ポンプで高真空に排気する。以上の設計方針にしたがって、エゼクターポンプと油拡散ポンプを購入して装置の製作を行っている。装置はまだ製作中であるが、できあがり次第実験を開始する予定である。
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