申請者の移動に伴って、実験室、実験設備の整備を新たに行った。そのため、当初の計画は縮小せざるをえなかった。以下今年度の主な成果について述べる。 1.2バンド系に関する理論的研究 高伝導性金属錯体結晶を構成する金属錯体分子のHOMO(最高占有軌道)とLUMO(最低非占有軌道)のエネルギー準位は近接しており、これらの伝導性結晶はいわゆる2バンド系であることがわかっている。しかしながら、これらの系に対するOnsite Coulomb反発の影響は以前の研究では明らかではなかった。そこで、本研究では単純化された2バンドハバ-ドモデルに基づきその影響を調べた。その結果、i)Onsite Coulomb反発の影響は電子密度により著しく異なる事、ii)Onsite Coulomb反発を考慮すると、高伝導性金属錯体結晶のHOMO-LUMO逆転はむしろ起こりやすくなる事、を明らかにした。これらの成果は現在投稿準備中である。 2.Me_4N[Ni(dmit)_2]_2の研究 この物質は常圧下で金属絶縁体転移をおこすが、高圧下で超伝導転移を示すことが知られている。本研究では、単結晶磁化測定から、常圧下、金属絶縁体転移温度以下で磁気的な転移を見出した。また、電気抵抗の温度依存性が結晶方位により大きく異なる事を明らかにした。 3.その他 研究発表に記したように、上記の研究に加えて、DCNQI塩の光学スペクトルに関する研究、α-EDT-TTF[Ni(dmit)_2]の超伝導特性に関する研究、κ-(BETS)_2GaCl_4の磁気抵抗に関する研究を行った。
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