本研究によって、1)マトリックスとそこに存在する小分子の間に強い相互作用が作用する場合、小分子の凝集と、マトリックス鎖自身の凝集は強くカップルしていること、2)その凝集過程においては、マトリックス内に独特の凝集パターンを形成すること、3)アクリルアミドゲル中でのKNO_3の結晶成長がOstwald熟成であることを再確認すると同時に、結晶粒子の一部が溶解し、それと反対方向の一部が成長することによって、結晶がゲル内を見かけ上移動することを見出し、4)Na_2CO_3を含浸させたゲルとCaCl_2を含浸させたゲルをセルロース膜を挟んで接触させることによってCaCO_3の結晶を析出させると、Na_2CO_3、CaCl_2濃度にほぼ比例したサイズの結晶が得られること、5)疎水性の異なるアクリル酸-アルキルアクリレイトゲルへの疎水性対イオン-ドデシルピリジニウムイオンの吸着の協同性は、ゲル鎖の疎水性が高いほど反協同的となること、6)n-イソプロピルアクリルアミドゲルの転移的体積変化・体積相転移は、ゲル鎖に荷電を導入すると、転移は消滅することなどを明らかにすることができた。 1)の研究においては、n-イソプロピルアクリルアミドゲルの転移的体積変化・体積相転移が、水分子のゲル鎖への脱吸着によって駆動されていることを、ゲルの体積変化が、それを誘起する温度・添加物濃度変化を、水の化学ポテンシャルの変化として捉え直すと、統一的に理解できることを示すことによって明らかにし、この事実から、体積相転移を実体的に説明する新たなメカノケミカルカップリング理論を構築することができた。3)の研究において、ゲル内を移動する結晶粒子が、ゲル外へ突き出ることを見出した。5)の研究によって、疎水性対イオンのイオン性ゲルへの協同吸着の駆動力となっている、吸着した疎水性対イオン間の疎水相互作用は、ゲル鎖の疎水性によって遮蔽されることが明らかにできた。6)の研究において、荷電基の存在が、ゲルの体積相転移を誘起するのに必須であるとの学説を否定した。5)の研究の延長として、Caイオンのイオン性ゲルへの吸着が、ゲル鎖の疎水性を高めることによって促進されることも明らかにされた。
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