研究概要 |
ガラスを熱処理するとガラスマトリックス中にナノメートルサイズの結晶微粒子が析出し,光透過性,磁性,電気伝導度などが顕著に変化する.熱処理時間が長くなると結晶微粒子が成長し,結晶化ガラス(ガラスセラミックス)となる.熱処理初期においては骨格構造の歪みが小さくなり,エネルギー的に安定化する(構造緩和が起きる).本研究では半導性バナジン酸塩ガラス(25K_2O・65V_2O_5・10Fe_2O_3)を結晶化温度(Tc)付近で10分間熱処理したところ,電気伝導度(σ)が6.3x10^<-8>S・cm^<-1>から4.3x10^<-4>S・cm^<-1>へ大きく上昇し,30分熱処理した試料も同程度の値を示した.50〜500分の熱処理後,σは10^<-5>S・cm^<-1>のオーダーとなり,2100分熱処理した試料では2x10^<-7>S・cm^<-1>まで低下した.これらの値は直流2端子法と交流4端子法の二つの方法を用いて得られ,両者はよい一致を見せた.バナジン酸塩ガラスの骨格はVO_4四面体とVO_5ピラミッドにより構築される.メスバウアースペクトルの四極分裂と線幅の減少からガラス骨格の歪みが小さくなることが確認された.従ってσの顕著な上昇はV^<4+>からV^<5+>への電子ホッピングの確率が大きくなるためと考えられる. 熱処理時間が長くなると結晶化が起き,KV_3O_8相が析出することが粉末X線回折により確認された.常磁性ガラス中に反強磁性的性質を帯びた結晶相(KV_3O_8)が析出する為,キュリーバイス定数が-13K(ガラスの値)から-93K(2100分熱処理試料)および-108K(5000分熱処理試料)へ低下したが磁化率測定から明らかになった.KV_3O_8相は絶縁体であり,長時間熱処理したバナジン酸塩ガラスのσはもともとのガラス試料の値(6.3x10^<-8>S・cm^<-1>)に近くなる.このことから,結晶化ガラスのσは析出した絶縁体相のσではなく,半導体であるガラスマトリックスのσに支配されると結論される.
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