これまで、バクテリオ口ドプシンについて4F、5F、6F-トリプトファンを導入することに成功した。その中で6F-トリプトファンを取り込んだものについてはスクロースグラジェントやMALDI-TOF MSの挙動から蛋白質と膜との複合的な構造に根本的な違いがある可能性が示唆されていた。通常のバクテリオ口ドプシンは膜上に3量体構造を並べた形の2次元結晶を作っていることが知られており、6F-トリプトファンを導入したものについてはその構造が崩れている可能性が考えられた。そこで、これら3種のF-トリプトファン含有バクテリオロドプシンのX線回折実験およびCDの測定を行ったところ6F-トリプファン含有パクリオロドプシンについてはX線回折像が全く得られず、またCDスペクトルからも非結晶性であることが明らかとなった。以上の結果を踏まえると6F-トリプトファン含有バクテリオロドプシンのMALDI-TOF MSが測定できないのは蛋白と膜を構成している脂質との相互作用に原因がある可能性があるので、アセトニトリル処理で膜を除去したところ、ワイルドタイプのバクテリオロドプシンと同様のMSスペクトルが得られることが分かった。これらの結果から6F-トリブトファン含有バクテリオロドプシンは膜上で3量体構造を取らないと考えられる。核間距離の測定をめざして、レチナールク口モフォアのシクロヘキセニル部分をCF_3基を持つベンゼン環に置換した化合物を合成し、5Fおよび6F-トリプトファンを含むオプシンとの再構成を行い、5Fの場合は成功した。このサンプルについてRFDRタイプの実験を試みたところ双極子相互作用によるものと考えられる磁化移動が観測できた。6F-トリプトファンを含むオプシンを用いて再構成を試みたところ合成レチナールク口モフォアは入らず、新たに-75ppm付近に化学シフトが変化した化合物を含む物質を生成した。
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