レーザー光を試料面上に集光し、微小域の光電子分光を行った。従来は、低繰り返し(YAG励起色素レーザー、繰り返し周波数10Hz)のレーザーと飛行時間型エネルギー分析器を組み合わせて測定してきたが、a.飛行時間型エネルギー分析器は高感度である反面エネルギーの校正に複雑な手続きが必要であること、b.低繰り返しレーザーでは電子による空間電荷の影響が出やすいことや測定時間が長くなることなどの欠点があった。今回これらの欠点を克服するために、高繰り返しのレーザー(チタンサファイアレーザー、繰り返し周波数76-0.1MHz)と半球型エネルギー分析器の組み合わせを採用した。当該補助金は、半球型エネルギー分析器用の計数器の購入に当てた。 まず、レーザー光を光源とした2光子光電子スペクトルを半球型エネルギー分析器と飛行時間型エネルギー分析器とで測定し、両者を比較することにより飛行時間から電子エネルギーを求める手続きの精度を調べた。その結果、Cu(lll)面など仕事関数がよくわかっている試料については従来の電子軌道計算から電子エネルギーを50meVよりよい精度で再現できることが確認できた。また、仕事関数の変化が大きい吸着系については飛行時間型エネルギー分析器の精度に問題が生じやすいことが明らかになった。 さらに、ベンゼンの吸着したCu(lll)面の微小域の2光子光電子分光を行った。その結果、30mW程度の紫外光(300nm)を0.2mmφ程度に集光したときに時事刻々吸着ベンゼンが脱離していく様子をとらえることができた。レーザー光による銅基板の温度上昇を考えるだけでは、ベンゼンの脱離温度に達しないことから、吸着ベンゼンそのものの光吸収が脱離に関与しているものと思われる。実際、2光子光電子分光では、ベンゼンの最低3重項励起状態経由の光電子が観測された。
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