最近表面分析における新しいプローブとして、全反射臨界角近傍の浅い角度で励起光を入射したときに放出される蛍光X線(以下、全反射蛍光X線-TXRF-と略す)が注目されている。本体蛍光X線は、元素組成分析は勿論、化学状態分析にも使えるが、TXRFはこれまで組成分析にしか用いられてこなかった。TXRFを通常の蛍光X線同様、状態分析に適用する事を究極の目的として、本年度はそのための新しい分光器の設計・製作から着手した。 今回製作した分光器は次のような特徴を持っている。1.TXRF測定用としては初の結晶分光器:状態分析に必要な数eV以下というエネルギー分解能を達成するため、湾曲水晶単結晶を分光結晶として組み込んだ。2.イメージングプレート(IP)による検出:TXRFの信号強度はかなり弱いと予想されるので、光路の空気や検出器の窓材による散乱・吸収の影響を避けるため、真空中に窓なしで設置できるIPを検出器として採用した。 この分光器を用いて、応用上重要なSiウエハ-を試料に、銅K線を励起光にして、実験室でTXRFの試験的測定を行った。その結果、5日程度の積算で、全反射条件下でのSiKα線をエネルギー分解能〜1.5eVで観測する事に成功した。これは、TXRFの高分解能測定の今後の展開上、重要な第一歩と思われる。しかしスペクトルのS/N比はなお十分でなく、残念ながらSiウエハ-表面に関する情報を引き出すには至らなかった。現在、励起光単色化用の結晶を試料前に置ける様に分光器を改造する事で、S/N比向上をもくろんでいる。 又、本研究は分光器設計という分光の土台から始めたので、微弱X線の結晶分光に関してかなりのノウハウが蓄積された。これをTXRF同様強度の弱いX線非弾性散乱スペクトル測定に応用したところ、いくつかの新しい知見を得る事ができた(雑誌論文参照)。
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