本研究においては、アルカリおよびアルカリ土類金属イオンとポリエーテルとの有機相中における錯形成、およびピクリン酸イオンとのイオン対生成・分配平衡を調べた。また、最も単純な系の一つである第4級アンモニウムイオンの抽出挙動も調べた。抽出平衡の解析においては、イオン対解離や複核生成等有機相中での副反応をを考慮した厳密な平衡解析を行った。また、電気伝導度測定により有機相中のイオン対解離およびイオン種のイオンの大きさ、形状またイオン対の構造を推定した。 これらの結果により、イオン対抽出に対する新しい機構を提案した。すなわち、イオン対抽出の機構の解析においてそのステップを、各イオンの水相から有機相への移行、そして有機相中での錯形成、会合の機構で説明した。ここで提案した機構による解析により、イオンの分配、錯形成、イオン対生成の各段階のエネルギーをかなり厳密に評価できた。これまで説明できなかった、非対称なイオンの抽出特性や、化学量論を示さなかった抽出系の特異的な挙動などが理論的に説明できた。 また可視・紫外吸収スペクトル、NMRスペクトル等の分光学的測定により、ミクロな分子レベルでの構造も明らかにし、さらに、分子軌道計算による理論との比較検討を行った。 これらの抽出機構の理論により、ポリエーテル誘導体による抽出・分離定量の系に適用し、より高感度、効率的な金属イオンの分析法の開発が可能となったと考えられる。これにより、希土類元素、アクチニド元素をも含めた金属イオンの分族・定量法の基礎が確立された。
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