研究概要 |
真核生物の初期進化における小胞体・ゴルジ体等の細胞内小器官の形成過程を解明することを目的として、細胞内小器官特異的に発現する遺伝子の重複による多様化過程について分子進化学的解析(分子系統樹の推定等)を行っている。ミトコンドリアおよび小胞体・ゴルジ体などの細胞内小器官を持たず他の高等真核生物と古い時代に分岐したことが16SrRNAやペプチド延長因子EF-1αの分子系統樹から解明されている原始的な原生生物の一種Giardiaに注目し、Giardiaのkinesin heavy chain遺伝子族について解析を行った。PCR法を用いてGiardiaのkinesin heavy chain遺伝子族メンバーのクローニングを行った結果、細胞内小胞輸送あるいは染色体分配に関与していると推定される15の異なるサブタイプ遺伝子の部分塩基配列を決定することに成功した。現在、他のサブタイプ遺伝子のクローニングを試みるとともに、現在までに単離した15遺伝子の完全配列の決定も試みている。昨年度および本年度に単離し塩基配列を決定したGiardiaのrab,ADP-ribosylation factor,ion pumpおよびkinesin heavy chain遺伝子を用いて分子進化学的解析を行った結果、細胞内小器官特異的に発現する遺伝子の重複による多様化は、Giardiaと他の真核生物の分岐以前、すなわち真核生物の初期に起きたことが明らかになった。このことは、Giardiaは小胞体・ゴルジ体などの細胞内小器官を二次的に失った可能性があることを示唆する。また、全ゲノムの塩基配列が決定された出芽酵母のデータを含めて上記遺伝子族について解析した結果、動物との分岐以降に出芽酵母の系統で、真核生物の初期に多様化した細胞内小器官特異的遺伝子の一部を失ったことも明らかになった。
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