真核生物の初期進化における小胞体・ゴルジ体等の細胞内小器官の形成過程を解明することを目的として、細胞内小器官特異的に発現する遺伝子の重複による多様化過程について分子進化学的解析(分子系統樹の推定等)を行っている。ミトコンドリアおよび小胞体・ゴルジ体などの細胞内小器官を持たず他の真核生物と古い時代に分岐したことが16SrRNAやペプチド延長因子EF-1aの分子系統樹から解明されている原始的な原生生物の一種Giardiaに注目し、Giardiaのrab、ADP-ribosylation factor(ARF)、カルシウムイオンポンプ、kinesin heavy chain遺伝子族について解析を行い、以下のような結果を得た。(1)PCR法を用いGiardiaのrab遺伝子族メンバーのクローニングを行ない、細胞内小器官の局在性が異なると推定される5サブタイプの塩基配列を決定した。(2)同様に、細胞内小器官の局在性が異なると推定されるGiardiaのARF遺伝子族の2サブタイプを新たにクローニングし、塩基配列を決定した。(3)Giardiaのカルシウムイオンポンプ遺伝子族メンバーのクローニングを行ない、細胞膜特異的に発現すると推定されるサブタイプの部分塩基配列を決定した。(4)Giardiaのkinesin heavy chain遺伝子族メンバーのクローニングを行ない、細胞内小胞輸送あるいは染色体分配に関与していると推定される15サブタイプの部分塩基配列を決定した。(5)上記のrab、ARF、カルシウムイオンポンプおよびkinesin heavy chain遺伝子族について分子系統樹を推定した結果、細胞内小器官特異的に発現する遺伝子の重複による多様化は、Giardiaと他の真核生物の分岐以前、すなわち真核生物の初期に起きたことが明らかになった。つまり、細胞内小器官の形成と細胞内小器官特異的遺伝子の多様化は同じ時期に起きたと推定され、形態レベルの進化と分子レベルの進化には関連性があることが強く示唆される。
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