研究概要 |
計画年数3年間のうち,各課題項目に関する初年度の結果は以下の通りである。 1.日本産小型哺乳類の遺伝学的位置付け:ニホンヤマネ,トゲネズミ,ケナガネズミ,アカネズミ類,ヤチネズミ類,モグラ類,ジネズミ類について分子系統学的解析を行い,ニホンヤマネについては研究成果を発表した(印刷中)。 2.近縁種比較のための新しいDNAマーカーの開発:これまで核18S-28SリボソームRNA遺伝子スペーサー(制限酵素断片長多型)およびミトコンドリアDNAの12SリボソームRNA遺伝子とチトクロームb遺伝子の変異を分子マーカーとして用いてきたが,今回,Y染色体上に特異的な遺伝子であるSRYの周辺領域や核遺伝子の1RBPエクソン領域の解析も試みた。さらに独自に5SリボソームRNA遺伝子スペーサーの多型を利用することを試み,ラットの解析結果はすでに論文として公表した。 3.環境変動に伴う遺伝子の文化と交流の実態の解明:これまでの分子系統学的解析結果から,日本産哺乳類は分子系統学的に3つの生物地理学的グループに分けられることが明らかになった。すなわち,(1)北海道,(2)本州・四国・九州,(3)南西諸島グループである。(1)は大陸産のものと近縁度が高く,第四紀初期以降に日本に渡来し,(2)はヤマネを筆頭に固有度がどの種も高く,第四紀初期にはすでに日本に渡来しており,(3)は(2)と同様に固有度が高く,その渡来も第四紀初期以前であることが推察された。ただし,各グループ内で種それぞれの進化過程が存在することが推察されたので,さらに各種における大陸種との遺伝的交流について多くのDNAマーカーを用いて詳細に解析していく予定である。
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