研究概要 |
1. 日本産小型哺乳類の遺伝学的位置付け:ネズミ類(トゲネズミ,ケナガネズミ,アカネズミ類,ヤチネズミ類),食虫類(モグラ類,ヒミズ類,ジネズミ類)について分子系統学的解析を行い, (1)日本産小型哺乳類は遺伝的固有度が高く、大陸産の最も近縁な種との分岐が第三紀後期にまでさかのぼる種が多く、これまで第四紀の渡来であると考えられてきた種も実はさらに古い時代に渡来し、現在に至っている可能性が示唆された,(2)日本列島内で、遺伝的多様性のレベルが著しく高いことが明らかとなった。中にはトゲネズミ、ヤマネ、モグラ類のように種内変異性が地理的に局在化している種もあった。 2. 近縁種比較のためのDNAマーカーの検討:ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子,Y染色体上のSRY逍伝子の周辺領域,核遺伝子のIRBPエクソン領域の併用が有用であると判断された。 3. 環境変動に伴う遺伝子の分化と交流の実態の解明: (1)日本産啼乳類は分子系統学的に3つの生物地理学的グループに分けられることが明らかになった。すなわち,北海道,本州・四国・九州,南西諸島グループである。それぞれのブロックごとに,それぞれの種は異なる起源を持つことが示唆された。 (2)陸橋形成時に大陸産種が必ず移入し定着できたわけではなく、日本固有種と長い期間現在に至るまで勢力分布上拮抗していたことがそれぞれの種内変異のレベルの高さから示唆された。(3)この遺伝的変異の生成には第四紀の気候の変動に伴う環境の変動が、地形的要因とともにそれぞれの種でそれぞれの様式で強く関与していることが示唆された。以上のことから、 (4)日本列島は、少なくとも哺乳類相については東アジア地域の中において、種の固有性、遺伝的多様性という2点において多様性の増大に大きく貢献しているものと結論づけられた。
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