本研究は、日本産エンレイソウ属植物の中で、二倍体オオバナノエンレイソウと四倍体ミヤマエンレイソウの種間交雑により生じる、三倍体雑種シラオイエンレイソウの形成様式ならびに定着様式を、生態遺伝学的アプローチで明らかにすることを目的として行った。 初年度(平成8年度)に行った交配実験の結果、オオバナノエンレイソウもミヤマエンレイソウも潜在的には種子親および花粉親のどちらにもなりうることが明らかになった。また、両種で共通した訪花昆虫が観察され、野外における両種間の花粉媒介は虫媒によって行われていると考えられた。 2年度(平成9年度)は3種の生葉から抽出した全DNAを用い、RFLP分析を行った。シラオイエンレイソウの葉緑体とミトコンドリアのゲノム型は、ほぼオオバナノエンレイソウのものと-致したことから、シラオイエンレイソウはオオバナノエンレイソウ由来の細胞質を持っていると考えられた。さらに、開花ステージと雄ずいの成熟状態との関係を調査した。オオバナノエンレイソウでは完全に開花するまでは葯の裂開はほとんど生じないが、ミヤマエンレイソウでは完全に開花する以前の早い段階で葯が裂開していた。また、雌ずいの花粉受容時期に関しては、オオバナノエンレイソウは完全に開花した後に多くの花粉を受け取り、高い種子結実率を示した。一方、ミヤマエンレイソウでは完全に開花する以前に自個体の花粉を多く受粉しているため、開花後、他からの花粉の伝達により受精が生じる可能性は低いことが明らかになった。 以上、2年間の調査結果より、三倍体雑種シラオイエンレイソウは野外条件下では、主として二倍体オオバナノエンレイソウを種子親、四倍体ミヤマエンレイソウを花粉親として形成されていると結論づけられた。
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