捕食者の種数が被食者よりも多い「頭でっかち」の系は、構成種が消滅しやすく不安定であるとの理論がある一方で、個体数が振動しながら長く共存した例もある。嶋田は、寄主アズキゾウムシと寄生蜂2種(コガネコバチA.c.と略、コマユバチH.p.と略)からなる実験系で、長期にわたる共存を確認し、EllnerとTurchin(1995)のLENNSとRSMの両解析法により、アズキゾウムシとA.c.の時系列でカオスの発生を検出した。さらに、カオスを生成する個体群機構を解明するため、時系列解析と齢構成モデルの双方向から解析を試みた。これらの蜂は、A.c.の寄生効率は寄主密度に強く依存するのに対し、H.p.は依存しない。また、両蜂とも4齢幼虫から蛹に寄生するが、H.p.の方がやや若い寄主を選好するのに対し、A.c.はやや老熟な方をより好む。このため、モデル化するには、蜂の機能的反応の差違・寄生対象となる寄主の齢構成などをどのように取り込むかが鍵となる。時系列解析は、津田みどり博士(学振特別研究員)の協力のもとに、いくつかの密度依存性を組み合わせた差分型モデルを用いて、複数の候補から対数尤度が最大となる最適モデルを選択した。齢構成モデルは、蜂の寄生選好性の違い(ニッチ分化)を表すより複雑な齢構成モデルである。両アプローチにより、この実験系の動態特性を解析したところ、3種の共存にはニッチの分化が大きく影響し、動的なニッチ・シフトのもとでカオス的な振る舞いが発生することが分かった。
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