研究概要 |
ニホンザルの乱婚社会におけるさまざまな社会的地位の個体のそれぞれの配偶・交尾戦略を調べ配偶集団としての群の維持機構・所属個体の繁殖上の存在意義を明らかにしようとした研究である。対象群は京都大学霊長類研究所放餌群若桜群と餌付け野性群の幸島群である。これらの群において配偶と交尾の過程が雌雄それぞれの順位に応じてどの程度雄の競争関係が影響し、どの程度雌の選択性が寄与するかということを明らかにしてきた(大沢)。若桜群の1996・1997年度出産個体については血液等を採取し、父子判定の分析にかけた。1996・1997年度交尾期の資料については、雌雄各3頭の個体追跡資料を得た。交尾相手決定の要因としての雌による雄の選好(female choice)と雄間の競争(male,competition)の両者の強さをHinde Indexで測定したが、この尺度では要因が相互に影響しあうため、式の一部を改変し雌の接近の程度を比較する尺度を用いた。そのため分析は少し遅れているが、資料はおおむね雌による雄選考の方が強力であることを示している。雌側の選好性および、父子判定との照合については、1997年度出産資料の分析結果およびこれから収集する1998年出産資料収をもちいる。なお、自然群では、母系的血縁が30年以上にわたって蕃積されている宮崎県幸島で、父系血縁図の作成を始めた。この研究ではごく一部の個体について調べ始めた段階であるが、完全血縁図が完成すると、自然群における配偶システムの全容が把握されることになる。 生理学的側面からの研究では(清水)、採血によらない非侵襲的方法として、尿、便からのホルモンアッセイ方法を確立した。これにより交尾期中、群中の主要なメスの採血、排卵日の推定のため毎週2回糞、尿資料を採集、順次ホルモンアッセイを行い、排卵日を判定した。これは今後の霊長類の生殖生態・生殖生理の野外研究に画期的な促進効果を与えることになろう。
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